かのんロゴ

第三話 「秘境・日本海に幻の巨大ガニを見た」

  月日の歩みは止まることなく進み、季節は冬へ。その間にも、圭くんとかのんさんには様々な事件があったのですが、深まっていく兄妹の絆の力で乗り切って来ました。
 さて、その日は朝から冷え込みが厳しく、布団から出るのにも、いつも以上の気力が必要でした。人一倍寒がりな圭くんもなかなか起きられませんでしたが、かのんさんの布団剥ぎ攻撃の前には為すすべもありません。
「な、何しやがる、かのん!? 急激な温度変化はカラダに悪いんだぞ!」
「だーめーでーすー! 起きてください、お兄ちゃん!!」
「っつーか、まだ四時じゃねーか! 何でこんな時間に」
「うむ、それはだな」
  現れたのは圭くんのお父さん。すでに身支度を整えています。ご年輩の方の朝は早いのです。
「鍋だ」
「なべ? 寝ぼけてんのか、オヤジ?」
「あのね、お兄ちゃん。今日の夕ご飯は鍋料理なの。だから、新鮮な材料を仕入れなきゃいけないの」
「そのためには、分かるな?」
「……朝市か」
  特別に寒い日、それは徳永家において『お鍋の日』とイコールです。家族で鍋を囲む至福の時間を過ごすためならば、どんな苦労をも惜しんではならない。それが代々、徳永家に伝わる家訓の一つなのでした。

「なんつーか、この日が来ると『冬だな』って実感するな」
「へぇ、そうなんだ。何だかワクワクしてきます」
 出撃体勢を整えた二人がリビングへ入ると、テレビが朝市の準備の様子を映していました。徳永家から朝市の行われている港付近までは約40分ほど。往復して家に戻ってきても、学校に行くまでは十分余裕があります。
「うっし、じゃあ行くか」
「はいっ!」
 その時です。テレビ中継から悲鳴が聞こえてきたのです!
「うっひゃあ!」
『か、かかかカニです! 巨大なカニが朝市を襲っています!?』
「圭、かのん、出動だ! 我が家の……いや、日本の食卓を守るのだッ!!」
「はいっ!」
「いや、でも間に合わねーだろ、助けに行くまでさ」
「心配無用。こんなこともあろうかと」
緊急出動! ゲットライド!
「これが新装備『アルトソーダー』だ。これならば文字通りあっという間だぞ、あははは」
「ちょっと待てーっ、安全装置とかそういうのはどうしたー!?」
「さぁ、飛ばしますよー? しっかり掴まっててね、お兄ちゃん、お父さんっ!!」
 かのんさんはそう言いますが、掴まる所などどこにもありません。慌てふためく圭くんに構わず、アルトソーダーは浮上し、加速していきます。
「ぅわぁぁぁああぁぁぁああっ!!!」
対峙(BGM『緊迫』)
「……ぅえ……ぃ?」
「よし、間に合ったぞ!」
 本当に一瞬でアルトソーダーは朝市の上空に移動していました。これはいわゆるワープというもので、空間を操る技術の賜物なのです。
 ともあれ、かのんさんは謎のカニの前にアルトソーダーを割り込ませ、侵攻を阻みます。
「来たなニカ、トクナガご一行!」
 カニの頭部から一人の宇宙人が飛び出します。
「アタシはカラミソ星人『カラ・コーカ』!」
『そして超兵器『ドーラク・シザース』ッッ! 作ったのは我が輩だ、ゲヒヒヒッ!!』
伏線?
 カニロボット・ドーラクシザースからホログラムが投影されると同時、下品な笑い声が響き渡りました。この近所迷惑な声はまさしく、
「Dr.スターク、やはり貴様か!! ……いや、その姿はどうした?」
「とうとう人間やめちまったのか、可哀相に……」
 位置のずれたカツラはそのままですが、カラダは鈍色の機械に置き換わっていました。モノアイになっているのは、マニア心をくすぐりそうです。
「う、うるさいッ、色々あったのだ!
 それよりどうだ、この作戦は!? お前の行動パターンを逆手にとったゲヒッヒ!!」
「何だとDr.スターク!」
『この寒い日にお前が鍋をやらない訳がない。そこで上質のネタを奪い去り、精神的ダメージを負わせ、弱った所を徹底的叩く。か・ん・ぺ・きだッ! まさにパーフェクツ!!』
「……そうか?」
「くっ、卑怯な……。だが、私たちは負けないぞ!」
『ゲヒヒヒ、吠えろ吠えろ。やれ、カラ・コーカ!!』
「了解ニカ」
ヘッドオン!
「ドーラクシザース、ヘッドオンニカ!」
 カラ・コーカが再びカニロボに収まり、戦闘モードが起動します。
「かのん、気を付けろよ。見た目はいつも通りアレだけど、なんかヤな予感がする」
「大丈夫、まかせてお兄ちゃん! 行きます、アルトソードブレイカーっ!!」
 アルトソーダーが高速で体当たりを仕掛けます!
スライドー
「甘いニカ! シザース・スライド!!」
 なんと、かのんさんの攻撃は超高速のスライド移動でかわされてしまいました。
「速いっ!?」
「チッ、カニだけにカニ歩きは得意か!」
「しかし、動きを読むのは難しくはないな。かのん、変形するんだ!!」
「はいっ!!」
「ふぁっ!」
ぶんかい
「はぁああっ!」
「アルトかのん・タイプS、完成です!」
「やっちゃれ、かのん!」
「はい、お兄ちゃん! やっちゃるですーっ!!」
 かのんさんは右腕のブレードをかざして、カニロボへ突撃を仕掛けます。もしも、スライド移動で回避されても、小回りの利く合体モードでなら追い打ちが可能でしょう。しかし――。
「だから、甘いと言ってるニカ!! 秘技シザース・キャッチ!!」
キャッチ
「ええっ!?」
「馬鹿な、受け止めただと!!」
「そして、トランスフォウム! アーンド、」
どがしゃー
「必殺のヘビーブロウッ!!」
 人型に変形したドーラクシザースの渾身の一撃が、かのんさんに叩き込まれます!
「きゃああああぁぁっ!?」
「かのん!!」
 あまりにも強力な攻撃に合体は解除され、かのんさんは投げ出されてしまいました。


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